2012年8月8日水曜日

買っちゃった!

珍しく実体のある(?)CDをポチた。最近はダウンロードばっかりなのだが、どうしても聴きたい曲があってね・・・

Glenn Gould - Italian Concerto / Partitas Nos.1 & 2 (Sony Classical: The Great Performances)

グレン・グールドに詳しい方なら「いい演奏だけど、たいして珍しくない盤」と思われるかもしれない。だが、この「The Great Performances」のリイシューにだけは、オリジナル盤と同じ「イタリア協奏曲」の有名な演奏(1959年録音)に加えて、彼の死の前年にあたる1981年のテイクが収められているのだ。

グールドは晩年、『イタリア様式によるバッハ』というコンセプト・アルバムを計画していた。彼の主要レパートリーと言ってもいい、バッハへの(最後の?)オマージュのつもりだったかもしれない。そして、その再録音「イタリア協奏曲」も収録されるはずだった・・・
たぶんアルバムのメインに据える予定だったのではないか?

しかし、その完成を待つことなくグールドは急逝してしまい、アルバムも立ち消えになってしまう。
没後15年経った1997年になって、遺された彼のメモや書簡あるいはプロデューサーの証言をもとに『未完のイタリアン・アルバム』として再構成されて、ようやく日の目を見るのだが・・・
残念なことに、肝心の「イタリア協奏曲」のみ昔の録音(1959年)に差し替えられていた。彼の死後に一部の録音が散逸してしまい、再録音のテープも紛失していて、止むなくの措置であったとのこと。

グレン・グールド『未完のイタリアン・アルバム』

この『イタリアン・アルバム』は他の収録曲も良くてとても聴きやすく、ずっと僕の大好きなアルバムだった。いつか「イタリア協奏曲」をあるべき姿に戻して自分なりのベスト・アルバムを作りたいと思うようになった。

81年版がやっと「発掘」されたのはその1年後、1998年に『シルヴァー・ジュビリー・アルバム』がリイシューされたときに目玉として追加されたのだが、内容的にはすこぶる???なうえに2枚組で高いので、今に至るまで入手していない。
まさか、コレで売るつもりで『未完の』リィシューの際はわざと入れなかったのではあるまいな?
コロムビアならやりかねんわ、それぐらいのコト。

The Glenn Gould Silver Jubilee Album

・・・というワケでやっと聴けた念願の「イタリア協奏曲(再)」は、やっぱり感激モノだった。正直、仮にブラインドで聴いたとしたら、はたして僕の耳で違いが判るかな?と不安だったのだが、いちど聴いてみれば違いは歴然だった。
初期の録音はそれはそれで素晴らしく、どちらに甲乙という次元ではないのだが、少なくともいま現在の僕の好みは新録音だ。旧録音はテンポも速めで「ハツラツさ」みたいなものが感じられるが、新録音はややゆったりめではあるものの、左手の低音部がより強調されて対位法の面白さがヴィヴィッドに聴こえてきて、全体として「雄大な」イメージだ。

この新旧の解釈の違いを、これまた彼の演奏の代名詞とも言える「ゴルドベルク変奏曲」の新旧録音になぞらえて、“青春の輝き” vs “晩年の境地” みたいにとらえる向きも多い。それでたいていは、「若い頃の演奏はより衝撃だった」となるのだが・・・
だが、その「ゴルドベルク」だって、1955年のデビュー録音と(奇しくも)最晩年1981年の再録音には明らかな解釈の違いはあるものの、その「折衷」とでも言えるような見事な演奏をメジャー・デビュー前の1954年に地元カナダの放送局CBCですでに残しているので、「ゆっくりポツポツ弾いているから“老いの境地”だ」なんて短絡的に結論づけるのは性急だ。

僕が思うに、グレン・グールドという人は、世に出た時点ですでに「グレン・グールド」として完成していたのではないか。極言を承知で言えば、ジャコ・パストリアスに近いものを僕は感じる。
もちろんキャリアを積むうちに解釈が変わることはありうるが、この人の場合は「イタリア協奏曲」にせよ「ゴルドベルク」にせよ、自分なりのいくつかの演奏パターンが初めから出来上がっていて、状況や制約に応じてそれらを使い分けていた(か、つなぎ合わせていた?)ような気がするのだ。

デビュー作「ゴルドベルク」にしたところで、「若手のピアニストのデビューにこの地味な選曲は何だ」とか「LP1枚丸々なんて、いくらなんでも冗長すぎるやろ」「反復部は極力カットして、時間的にも短く収めんかい」といった、レコード会社上層部からの圧力があったと聞く。
そんな制約のなかで、けっして妥協ではなく「あ、そぅ? ならしゃぁないなぁ、“壊れた早回しオルゴールパターンB”でいきまっか?」なんて実際に彼が考えたはずはなかろうが(くれぐれも、僕の勝手な妄想ですからね!)、それに近い状況下で生み出されたのが、あの名演だったりして・・・

いやいや、本題は「イタリア協奏曲」だった・・・
好き嫌いは人によりだろうが、僕としては新鮮な発見の多い「イタリア協奏曲」が聴けて大満足。
ガキの頃、カール・リヒターのチェンバロを聴いて、冒頭の和音一発「ジャーン」で飛び上がったのに匹敵するインパクトかもしれない(もちろんTDK盤の“怪演”ではなく、アルヒーフ盤である)。
さっそくiTunesで、『未完』の旧録音と差し替えました。

ところで、もしこれをお読みになって聴いてみたいと思った貴方、もう少し待てば買えるんですよ、しかもけっこうお安く。実は僕も昨夜この下調べをしていて見つけて、内心「ウッ」と思いましたよ。

http://tower.jp/item/3131176/Glenn-Gould-Plays-J-S-Bach---6-Partitas-BWV-825-BWV-830,-etc

第3楽章のみですが、比較音源を見つけました。

いゃーぁ、いつになく饒舌だな、おと〜さん

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